『わが心のAOR~ボビー・コールドウェルに捧ぐ』

ついに自分が本当に書きたいものについて、書くべき時がきた。

私がボビー・コールドウェルの音楽に出会ったのは19歳の頃だった。1978年に発表されたデビューアルバム『イヴニング・スキャンダル』を、ジャケットの雰囲気からなんとなく手にした。

日本ではアダルト・オリエンテッド・ロックと言って、ジャズやフュージョンをミクスチャーしたジャンル、いわゆるAORがとても人気だ。

ボビーに出会う前に、私はスティーリー・ダンを聴いていた。ドナルド・フェイゲンの生み出す世界観は、とても都会的で、なおかつ渋みがあり、独特のひねりがある。超一級品という感触をうけた。私はすぐ虜になってしまった。

他にもボズ・スキャッグスやアル・ジャロウ、リオン・ウェアといった大御所がいる。私はAORにのめり込んでいった。

そんな中、ミスターAORと呼ばれるボビーに必然的に出会うのだが、先述のデビューアルバムに収められた『What You Won’t Do for Love』を聴いて、ただならぬ魅力を感じた。

この曲は、今でもヒップホップのサンプリングとしてよく使われているほど有名だし、今ではもはや普遍的なクラシックとして存在する。

私がボビーを好きなのは、圧倒的に洗練されていること。そして、歌にハートがあるのだ。ここが非常に重要なのだが。

ボビーは白人であるが、黒人顔負けのソウルフルな歌声を持つ。かといって、それが泥臭くなく、非常にソフィスティケートされた、シルキーな雰囲気をまとっている。これは天性のものだ。

私は一度、ボビーのライヴに行ったことがある。場所はビルボードライブ大阪だった。当時勤めていた新聞社の上司が音楽好きで、連れて行ってもらったのだった。

「何のライヴに行きたいの?」と聞かれて、「ボビー・コールドウェルです!」と答えたら、「君の年齢でボビーに行きたいなんて、変わってるね」と言われた。

上司は約束どおり、連れて行ってくれた。ビルボードライブは、普通のコンサート会場とは雰囲気がちがい、大人が落ち着いて音楽を楽しめるところ。少々敷居が高い。ハコも小さいし、お酒や割といい料理を出してくれる。

上司は、BOX席をゲットしてくれたので、最高の場でボビーの歌声を堪能することが出来た。

驚いたのが、ものすごくイケてる曲(それが何だったか失念したが)で、ボビーが鍵盤ハーモニカを使って演奏し始めたことだ。ボビーは楽器もなんでもこなすことが出来るが、ボビーと鍵盤ハーモニカ。そのギャップに驚いた。

ちょうど10年前に、なんとドナルド・フェイゲンとボズ・スキャッグス、マイケル・マクドナルドという超一流がタッグを組み(デュークス・オブ・セプテンバーのことだ)、来日した。

幸運にもこのライヴにも足を運ぶことができた。客層はほとんど男性ばかりだった。

二時間ばかりのステージは、音の宝石箱というか、完璧なるパフォーマンスだった。隙がないくらい、美しかった。これは、ほとんど事件だった。その場に居たことが奇跡だと思った。私の求めている世界がそこにあった。

私は、ドナルド・フェイゲンを敬愛している。癖のある歌声とシニカルな歌詞。彼は本物であると信じて疑わない。突出した才能である。クール、実にクールなのだ。

しかし、フェイゲンの自伝『ヒップの極意』を読むと日本公演についてめちゃめちゃネガティブに書かれている。彼は日本があまり好きではないらしい。それも彼らしいといえば、彼らしいが。

この自伝は、日本人にはなかなか難解な箇所が多く、というのもアメリカの文化に精通していないとよくわからないことがたくさんある。しかもフェイゲンの風刺に満ちたジョークや表現は、アメリカ人ではない私には本当にむずかしかった。

しかし、私のフェイゲンに対するリスペクトの念は変わらない。

話をボビーに戻すが、ボビーは本国アメリカより日本で非常に人気が高い。アメリカでは過小評価されているのではと思ってしまう。

だがAORをなめてはいけない。かつて、それらの音楽は女の子を口説くための音楽として使われた。特にボビーの曲は。

それは、素直に、シンプルに愛のメッセージを歌っているからなのだが、私はそれがいいと思っている。「あなたを愛している」、そのシンプルさが胸を打つ。

彼の歌は、時代を超えて、コンテンポラリーであり続ける。私は、それに飽きることがない。ずっと愛し続けるだろう。

ボビーは日本のファンをとても大切にしていて、ほぼ毎年来日してきた。だが、コロナや本人の体調の悪さにより、最近は日本に来ていない。

奥さんが確か日本人だったと思うが、ボビーの容態が良くないとネットに書いてあるのを見た。ボビーのために祈ってほしいと呼びかけていた。

私はボビーのために祈ろう。彼の歌には今でも魅了されっぱなしなのだ。その歌声は永遠に私をとらえて離さないだろう。

これからも、ずっと。

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