『キャデラック・レコード 音楽でアメリカを変えた人々の物語』レビュー

音楽で世界を変えれるのか。変えれる、と私は思う。
これは、アメリカで生まれたブルースの史実に基づいた物語である。

1941年、ポーランドからの移民であるレナード・チェスが、自身のレコードレーベル❝チェス・レコード❞を立ち上げ、アメリカの音楽史に残るような功績を生み出す。
それは本当に世界を一変させるくらいの出来事であり、ロックンロールの原型であり、現在のR&Bやヒップホップといったブラックミュージックに大きな影響を与えている。

チェスを演じるのは、『戦場のピアニスト』でアカデミー賞主演男優賞を受賞したエイドリアン・ブロディ。白人であるが、人種の垣根を超えて、黒人音楽を世に伝えた成り上がりの人物を渋い演技でみせる。
どこか繊細でソフトなムードを漂わせる彼が、アメリカンドリーム、つまり夢をつかみ大金を稼ぎ、キャデラックに乗る。その栄光の裏には、人種差別、酒、ドラッグ、女、葛藤、さまざまな挫折があった。
チェスが最初に目をつけた、農村で働くマディ・ウォーターズ。彼は後に、『ブルースの父』と呼ばれるようになる。
チェスとマディは、レコーディングした曲をラジオ局に売り込む。時には賄賂を渡し、その曲を流してもらう。世間で黒人がまだ市民権を得ていなかった時代に、彼らの音楽はたちまち認められヒットチャートを駆け抜ける。

この映画にはたくさんの歴史上のミュージシャンが登場する。ハーモニカ奏者のリトル・ウォルター。ロック界の伝説、チャック・ベリー。そして、ビヨンセが演じるエタ・ジェイムズだ。
これは音楽映画であるが、チェスとエタの大人の恋愛を描いたラブストーリーとしても楽しめる。
歌姫ビヨンセが歌唱する名曲の数々は、観る者をぐいぐい引き込んでいく。はっきり言って、鳥肌が立つ。涙が出てくる。本物のエタはあんなにスタイルが良く、美人ではなかったと思うが、ビヨンセが持ち前のセクシーさで熱演。
彼女はヒット曲を連発し、成功するが、それと比例するように堕落していく。白人の父と黒人で娼婦だった母とのあいだに生まれたこども。それが彼女に暗い影を落としている。
チェスのはからいで高級レストランを貸し切り、父との対面の場面を設けるが、有名になった娘をすげない態度であしらう父。エタは自分が望まれて生まれてきたのではないことをあらためて知り、怒りと哀しみにうちひしがれる。
そんなエタをなだめ、見守るチェス。エタは全米ヒットチャートで一位を記録するが、プライベートではドラッグに溺れていった…。
チェスは最後まで彼女を見捨てない。自身のレーベルを終わりにすると宣言し、レコーディングスタジオで最後のセッションを行うチェスとエタ。エタはチェスのおかげで薬物を絶ち、更正していた。
レーベルの終わりを突然チェスから告げられたエタは、渾身の思いを込めて歌う。チェスのためだけに歌っているのだった。
数々のレコード賞と、それを支えてきたミュージシャンたち。すべてを手放す覚悟をしたチェス。様々なことがあり、一緒に乗り越えてきた。熱い想いが込み上げる。
チェスはスタジオを出た先で発作が起き、死んでしまう。夢のキャデラックに乗ったまま。ここで、ひとつの時代が終わる。

本作には、チェス・レコードに所属したアーティスト以外にも多くのミュージシャンが登場する。ロックを世に知らしめたエルヴィス・プレスリー。イギリスが生んだ伝説のバンド、ローリング・ストーンズ。そして、アメリカ音楽を語るうえで外せないビーチ・ボーイズ。
彼らは、みんなチェス・レコードに影響を受けている。現代音楽を紐解いていったら、その背景にはブルースという歴史が存在する。それらを知るうえで、この映画は一見の価値がある。
音楽を愛する人すべてが観ておくべき作品だ。

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