『イングランド・イズ・マイン』レビュー

モリッシー。その名前を聞くだけで、私は胸が熱くなる。その歌声を聴くと、心が震える。
『イングランド・イズ・マイン』(2017年)は、1980年代を代表するバンド、ザ・スミスのフロントマンであったモリッシーがバンドを結成する直前までを描いた伝記映画。
公開当時、地元の映画館にポスターが貼ってあったのだが、その時見逃してしまった。
ザ・スミスは私にとって特別な思い入れがあるバンドだ。多感な十代の頃に出会い、たくさんの救いを与えてもらった。
そして、40代になった今でも私はザ・スミスを聴き続けている。モリッシーのソロまで追っていなかったのだが、遅まきながら聴き始めている。
毒舌で詩人な彼だが、モリッシーがいかにしてモリッシーになったのかをこの映画を観ればわかる。

スティーヴン・パトリック・モリッシーは、マンチェスターで生活していた。彼は学校を辞め、ライブハウスに足繫く通っては音楽誌に批評を送っていた。
彼をとりまくもの、音楽、オスカー・ワイルドの本、そして冴えない日々。
就職はしたが、なかなか社会に馴染めない。遅刻や欠勤を繰り返しては、ノートに詩を書き綴った。
そんなモリッシーに転機が訪れる。偶然出会ったリンダーという美大生のすすめでバンドを結成することになる。そこからモリッシーの人生は大きく動き始め…。

この映画には、ザ・スミスの音楽は使用されていない。彼が最初に結成したバンドの成功ののち仕事をやめるのだが、そこに待ち受けていたのは見えない壁だった。
失意のモリッシーに、運命の出会いともいえるジョニー・マーが彼を訪ねてやってくるまでを描いた映画である。
人生には挫折がつきものだ。とくに、生きるのが不器用な者にとっては、それは絶望的な光景ともいえる。
「世界は僕を求めていない!」と深く嘆くモリッシー。しかし、彼は書き続けた。自分の詩を。あきらめなかった。自分の音楽を。
彼には幸い理解者がいた。彼の母親はこう言った、「自分の世界を作るの」と。彼は信じた。そう、この映画のキャッチコピーである「たとえ世界に望まれなくても、僕は歌う」を実践したのだ。
たとえ希望が見出せなくても、いつか光が射す。それを信じることが出来たから、続けることが出来たから、今のモリッシーが存在している。

彼ほどの才能だから、私は彼にこんな苦悩があることを知らなかった。私は、彼に強く共鳴する。
ザ・スミスと出会った時に感じたことだが、彼の音楽はけして明るいものではない。楽観的なものではない。だが、悲しみや絶望、おそれなどからすくい上げられる彼の詩世界や音は、どこか美しい光さえ感じられる。
それはたくさんの失敗や挫折、別れを経験したモリッシーだからこそ創り出せるものなのかもしれない。だから、こんなにも私は彼の音楽を愛しているのかもしれない。

私の部屋には、モリッシーの写真がいくつか飾られている。単なるアイコン、スターというだけではなく、彼は私にとって良い指針なのだ。
私は、心から愛す。ザ・スミスを、モリッシーの音楽を。この幸運な出会いにどう感謝しよう。
彼が彼であり続ける限り、私の中でモリッシーは永遠である。誰にも否定させない。最後の最後まで愛し続けるだろう。

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