『言の葉の庭』レビュー

新海誠作品『言の葉の庭』を鑑賞。
この映画を鑑賞するのは、もう三回目である。
初めて新海作品に触れたのが、この映画だった。
わずか46分に凝縮された世界観は、独自の瑞々しさとどこか奥ゆかしい日本らしさを感じさせて秀逸である。

主人公の孝雄は高校生。靴職人を夢見ながら、雨の日は授業をサボって公園で靴のデザインを考えている。
ある雨の日、孝雄はそこで雪野という女性と出会う。
二人は、互いが同じ高校に通う生徒と教師とは知らずに、雨の日だけの少しの時間を共に過ごす。
次第に打ち解けていく二人。孝雄は将来靴職人になりたいことを雪野に語る。雪野には辛い現実があって、味覚障害なのだが、孝雄の作ったお弁当に味を感じる。
孝雄のなかに広がるほのかな雪野への想い。雪野のために靴を作ることを決心した孝雄は、雪野の足を採寸する。
そして、梅雨明けしたせいで二人はしばらく会わなかったが、偶然学校の廊下ですれ違う。
雪野が生徒からの嫌がらせにより退職に追い込まれていることを知った孝雄は、ある行動に出る…。

まず、新海誠はズルいんである。なにせ映像が美しい。私はアニメはそんなに見ないのだが、リアルよりもリアルすぎるくらいに色彩の美しさを感じる。
本作における雨の描写と、登場人物の繊細な心の揺れ動きを画面に映し込む天才である。それも、とても細やかに。
そして、映画のハイライトともいえる場面でかかる音楽!大江千里の名曲を秦基博がカバーした『Rain』だ。
私は、いつもここで涙腺が崩壊してしまう。なんという演出だ。この作品にぴたりとマッチして、本当に素敵すぎる。切なすぎる。胸がつまる。
孝雄の想い、雪野の心が痛いほど伝わる。

これは恋の物語なのだろうか。それにしては、淡く爽やかな余韻を残すアニメである。
郷里の四国に帰ってしまった雪野からの手紙を読みながら、いつか彼女に会いに行こうと思う孝雄。もっと、もっと自分の足で遠くまで歩けるようになったら。
雪野との日々を思い返し、想い出に耽る孝雄は気付く。二人で歩く練習をしていたのだと。それは、自分の足で踏みしめる人生の一歩なのだと。
私は、新海作品に出会って、アニメに対する固定観念を変えざるをえなくなった。これこそ私が、いや、私たち日本人が感じる❝日本の心❞のかたちなのではないか。美なのではないか。
それを世界に誇ってもいいように思う。

 

 

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