『秒速5センチメートル』レビュー

新海誠の短編アニメ『秒速5センチメートル』鑑賞。
またしても、新海誠とは一体何者なのかと思ってしまった。
3つの物語が、それぞれの時間を軸にして構成されている作品で、短くも非常によく出来たアニメである。

貴樹と明里は転校生同士だった。小学校で出会い、どこか似通った二人は次第に仲を深めていく。
同級生にひやかされても、二人は交流を続けた。
中学卒業とともに栃木へ引っ越した明里。離ればなれになった二人は、手紙を送り合う。
そして、今度は貴樹が鹿児島へ転校することになってしまう。
簡単には会えない距離になると感じた貴樹は、明里に会うために電車に乗るが、大雪で何度も途中停車してしまう…。

第一話『桜花抄』では、貴樹と明里の想い、切なさを感じることが出来る。
互いにしたためた手紙は、どちらも相手に渡されることはなかった。
やっとの再会で、そっと重ねた唇。でも、貴樹は思うのだった。「何かが届かない」と。
「貴樹くんはきっと大丈夫」と明里は言う。二人はふたたび会うことが出来るのだろうか。

第二話『コスモナウト』では、花苗という高校生の少女が同級生の貴樹に恋をする。
だが、これは苦しい片想いなのである。貴樹はとても優しい。優しいが、いつも何を考えているのかよくわからない。
花苗は進路のことや、趣味で始めたサーフィンにうまく波乗り出来ないことに悩んでいた。
ある日、うまく波に乗った花苗は、自分の気持ちを貴樹に告白しようと決心するが…。

ここでも、花苗の言葉が貴樹に伝えられることはなかった。貴樹には、何か他に大切なことがあり、自分が入り込む余地がないと悟ってしまったから。
言葉を伝える代わりに花苗は泣いた。そして、思うのだった。貴樹を、ずっとずっと好きだと。想い続けるであろうことを。

そして、第三話は『秒速5センチメートル』。
社会人になった貴樹は仕事の日々に追われながら、三年間付き合った彼女から別れのメールを送られる。「1000回メールしても、心は1センチくらいしか近づけなかった」と。
何かが足りない、何かが埋まらない。その葛藤と焦り。でも、何が…?勤めていた会社を辞めてしまった貴樹。
一方、明里は結婚している。貴樹に打ち明けなければと思いながら、幸せそうでどこか寂し気な明里。
ある時、踏切で貴樹は一人の女性とすれ違う。ハッと感じるものがあった貴樹は思わず振り返るが、その瞬間に遮断機がおり列車が通り過ぎる。
通過した後、そこには彼女の姿はもうなかった。

この映画では、山崎まさよしの『One more time, One more chance』が流れる。この演出がドラマティック過ぎて、映画とマッチしていて、新海マジックにかかってしまったように切なさで心がぐるぐる巻きにされるのである。本当にずるい。
この曲に私はとくに思い入れがあるわけではなく、1997年、中学生だったときによく流れていた流行歌としてしか意識していなかった。
だが、この映画を観たせいでか、とても気になる曲になってしまった。名曲だと思う。
そして、新海作品を観たあとは、決まって自分の世界の見え方が変わるのだ。ほんの微細なこと、日常の景色がとても愛おしく感じる。
この景色を誰かと見たいと切に願う。もう出会っているのか、まだ出会っていないのかわからない、大切な誰かと。
生きているという日常は、息をして、食べて、眠って、恋をして、仕事して…そんなことの繰り返しだ。けれど、命というのは与えられた瞬間から限られている。時間を止めることは出来ない。
でも、いま与えられた命以前から、魂は続いているように思う。遥かな旅、それは魂の軌跡であると。遠い記憶や想いを巡って、いまある命を精いっぱい生きよう。
またふたたび出会えるかもしれない。もう出会えないかもしれない。
それでも人は生きていく。何かを信じて…。

新海誠は宇宙という神秘をモチーフにしているようにも感じられるのだが(日常を描いているのにどこか宇宙的である)、そこにどんなメッセージがひそんでいるのか今後も考察していきたい。
しかし、アニメを侮ってはいけない。こんなにも美しく、胸に残る作品をありがとうと心から思う。

 

 

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