『ロリータ』レビュー

今でも世界文学の中で最高と言われているのが、ナボコフの『ロリータ』だ。

ロリータと聞けば、ロリコンやゴスロリなどが思い浮かぶ人がいるかもしれないが、そういった文脈で語るのは避けたい。

今回はエイドリアン・ライン監督版の映画『ロリータ』について書きたいと思う。

フランス文学の教授であるハンバート(ジェレミー・アイアンズ)は、アメリカにやってきた。新たに大学で教鞭をとるために。

住まいとして、未亡人のシャルロット宅に下宿することになる。初めは気乗りしなかったハンバートだったが、庭で読書するシャルロットの娘を一目見て心奪われる。

この娘の名をドロレスと言う。だが、ここでは彼女をロリータと呼ぶことにする。ハンバートは愛を込めて彼女を「ロー」と呼ぶが。

ある日、ハンバートは手紙を見つける。それはシャルロットからで、この家を出ていくか、自分と結婚するかの二択を迫る内容だった。

ハンバートは彼女に全く興味がなかったが、ロリータと一緒にいるためにシャルロットとの結婚を決める。ロリータは、夏の寄宿学校に出かけてしまう。

その間、彼はシャルロットとの夜の生活を避けるために、あらゆる策を講じていた。強力な睡眠薬を飲み物に混入させ、彼女を眠らせた。だが、次第にそれは効かなくなる。

そして、またある日。ハンバートの部屋にシャルロットがいる。彼女は見つけてしまったのだ、彼の秘密の日記を。そこに綴られていたのは、ロリータへの想い、シャルロットに対する罵詈雑言だった。

それはシャルロットを深く傷つけた。取り乱すシャルロットを落ち着かせるために、ハンバートは酒をついでくる。しかし、そのほんの少しの隙に、彼女は道路に飛び出し、車にぶつかって即死してしまう。

ハンバートは衝撃を受けるが、すぐさまロリータのいる寄宿学校に向かう。そう、ロリータと一緒に生きていくのだ。

彼は車を走らせる。母親が死んだことは秘密だ。シャルロットは病気で入院していると嘘をつくハンバート。二人はリゾートホテルのようなところに向かった。

そこで、ロリータは犬を連れた不思議な男と出会う。その男が著名な劇作家のキルティと気付くが、少し会話を交わしただけだった。

同じベットで眠らなければならないハンバートとロリータ。ハンバートはロリータが眠りについたことを確認しながら、そっとベットに横たわる。ロリータは目覚めたが、話があるという。

その話とは、寄宿学校の出来事のことで、彼女は同じキャンプに来ていた男の子と関係したというのだ。ハンバートに誘惑気な目つきをするロリータ。二人は結ばれた。

あくる朝、ハンバートは車を走らせながらロリータに確かめる。「私が初めてではないのか?」その問いに「あなたが初めてよ」と適当に答えるロリータ。いや、彼女は経験済みだろうと私は思うのだが。

二人はあてどなく車で移動する。安モーテルに寝泊まりする日々。ここから、さながらロードムービーのようだ。

彼はきちんとした生活を送るために、彼女を規律の厳しい女子校に通わせることにする。しかし、そこは思っていたより先進的な考えの学校で…ティーンエイジャーの女の子に必要なのは教育より週末のデートだというような方針のところだった。

ハンバートは一抹の不安を感じながらも、ロリータをこの学校に通わせる。ロリータは、学校生活を楽しんでいるようだった。

一度は良い父親になろうと努めるが、やがてロリータは金をせびるようになる。お小遣いが足りないとねだる。ロリータの惑わすようなしぐさに負けてしまい、ハンバートは金をあげる代償として、彼女とふたたび性的な関係を持つようになってしまう。

ロリータはひそかに金を貯めていて、どうにかハンバートから逃げ出そうとするが、そのことがバレてしまい、失敗してしまう。仕方なく、彼女はハンバートとまた旅に出ることに決めた。

二人は車で旅をするが、ロリータは何日にここに行きたいと細かく指定をしてくる。ハンバートはそれに従うが、何かおかしいと思っている。それに誰かに尾行されているような予感がする。

ハンバートは彼女のために果物を買いに行った。帰ったら彼女がいないのではないかと思いながら。しかし、彼女はモーテルの部屋のベットに座っていた。ハンバートに笑顔を向けるロリータ。
だが、彼はすぐ察知した。彼女が誰かと会っていたのではないかと疑う。

「誰と会っていたんだ!」と激しくロリータを叱責するが、彼女は口を開かない。気が狂ったようなハンバートを演じるジェレミーは、この映画でも半泣き状態である。お願いだから真実を言ってくれと、しまいには哀願する。ロリータは、ただケラケラ笑っている。

そんなことがあって、ハンバートはますますロリータに対する束縛がきつくなってしまう。とにかく目が離せない。

たまたま立ち寄ったガソリンスタンドかどこかで、居合わせた婦人から「この子、具合が悪いのでは」と心配されるロリータ。確かに顔色が悪い。

ハンバートは彼女を大きな病院に連れて行った。医者からは、入院が必要と言われる。ロリータのそばにいたいと願うハンバートだが、伝染病かもしれないので帰ってくれと言われ、そのまま病院を後にした。

しかし、それは巧妙な手口だった。ロリータは逃げたのだ。ロリータの叔父と名乗る男が彼女を引き取るために退院させた、彼女はもうここにはいないと医者は告げる。計画的犯行。

ハンバートは探しまくる。尾行されていたのもおかしかった。やはり気のせいではなかったのだ。誰なんだ、ロリータをさらっていったのは。彼はあらゆる手段を使って、調べに調べたが、有力な情報は得られなかった。

それから3年の月日が経った。ハンバートのもとにロリータから唐突に手紙が届く。

自分は妊娠していて、金が必要だという。ロリータの家を訪ねるハンバート。彼女には夫がいて、もう少女の面影はない。というか、所帯じみていて実年齢より老けて見える。

「ここから25歩あるけば、思い出の車に行ける。私と一緒に来てくれないか」とハンバートは言う。だが、ロリータは嫌だと言う。ハンバートが一緒に暮らそうと言っても、それは出来ないと断る。

「そうか。断られても金を渡すよ」とロリータに封筒を手渡すと、彼女は嬉しそうに中を確かめた。そして、告白する。「私が愛した人は、ただ一人」と。

実は、彼女が病院に入院した時に連れ去って行ったのは劇作家のキルティだったというのだ。彼女は彼を愛していたという。

だが、キルティの屋敷で少年少女が集められ、乱交のようなものが行われたとき、ロリータはそれに加わるのを拒んだ。そして、あなたと愛し合いたいとキルティに申し込んだら追い出されたというのだ。しかし、彼女はキルティだけが好きだったと口にする。

ハンバートの気持ちは、平静でいられない。

キルティの屋敷に乗り込んでいくハンバート。その手には銃を握って。

このキルティというのが、とんだド変態野郎なのだが、ロリータのことはあまり覚えていない様子だった。そして、性的不能者だったから、ロリータとは関係していなかった。

だが、ハンバートは「お前が私の愛するロリータを奪ったのだ」と半狂乱する。銃口を向ける。キルティは何発も打たれて死んでしまう。

ハンバートは許せない。ロリータが愛したただ一人が、自分ではなく、キルティだということがどうしても許せなかった。

車を走らせるハンバート。警察の車が何台も追ってくる。彼は車を止めた。

そして、草原のなかで、つかの間ロリータのことを思った。ロリータと過ごした幾ばくかの日々を思い出し、彼は孤独を感じた。

その表情は、悲しみを帯びていながら、どこかすがすがしく、遠い彼方を見つめているのだった。
彼の中でロリータは永遠にロリータになった。昔の面影のままに…。

エンドクレジットになるが、ハンバートは獄中で死去し、同じ年にロリータも難産のため病院で死んでしまったということだ。

私は、原作の小説も読んでいないし、キューブリック版の『ロリータ』は観ていない。読んでおくべきか、観ておくべきか。少し考えておこう。

ロリータ役の少女にあまり魅力を感じなかったのが残念だ。歯の矯正器具までつけてるし。可愛くなくてもいいから、魅力的であってほしかった。

ガムをくちゃ嚙みするし、人前で平気でゲップとかしそうな少女だ。笑いたいときに笑い、ふくれっ面したいときはそうする。

無邪気といえばそうだが、あけすけ過ぎて、ハンバートが魅力を感じるような要素に乏しいと感じてしまう。女の片鱗すら見せていない。

勝手な私見だが、何か、内側に秘めるものがあってほしかった。

結局のところ、私はジェレミー・アイアンズが好きなのだ。それに尽きる。

彼にはデリケートな部分があると察する。だから、惹かれる。

ともすれば、単なるエロ親父になりかねない役も、彼が演じるとそうはならない。繊細すぎるほどの感覚に触れ、人間は非常に危うい生き物だということを感じさせられる。

そして、不思議なことに、作品に品格さえ与えてしまうような俳優である。好きだ。

ちなみにこの映画は1997年のものだが、いま現在DVDが廃盤になっており、入手困難らしい。
私はつい最近、偶然、安価でこのソフトを手に入れることが出来た。幸いなことだ。

なお、この記事を書くにあたって、未成年に対する性犯罪を助長させる意図はありません。そこのところをご理解いただきたい。

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