『僕のスウィング』レビュー

今回、ご紹介するのは『僕のスウィング』(2002年仏)だ。
伝説のギター奏者、ジャンゴ・ラインハルトに憧れた少年とロマの少女の短くも淡い恋を描いた物語である。監督は、トニー・ガトリフ。
別コラムで書いた彼が監督の映画『ベンゴ』がハードボイルドで大人っぽい内容だとすると、こちらは随分と爽やかで、また別の切なさがある。
全篇が瑞々しさに彩られている。

これも音楽映画である。
皆さんは、マヌーシュ・スウィングをご存知だろうか。
ロマの音楽とジャズが融合したのが、それである。
劇中、少年が一生懸命練習しているジャンゴは偉大なる存在だ。どんな境遇にも負けず、自らの音楽を開拓していったミュージシャンである。

ちなみに、私がジャンゴを知ったのは幼少の頃であった。
あれは確か80年代、NHKが週末ごとに演劇や舞踏を放送していた頃だ。
舞踏家・勅使河原三郎がジャンゴの『マイナースウィング』に合わせて踊っていた。無機質な踊りだった。彼はまるで操り人形のような動きだった。
それがミスマッチではなかったことが印象に残っている。

私の母がジャンゴを愛した。
その血を受け継いでか、私もジャンゴのスウィングに心惹かれる。

ロマの民族は、常に同じところに留まっていない。流浪の民である。
そこには迫害などの悲しい歴史がある。
映画の中の彼らもまた、トレーラーで生活している。

彼らは文字を書くかわりに楽器を奏でた。
言葉を紡ぐかわりに歌を唄った。
それを伝承していった。彼らはルーツを忘れることがない。
自らに流れる血に従って生きている。心に従って生きている。

この映画では、ジャンゴ以外の音楽にも出会うことが出来る。
『黒い瞳』。この曲を聴くと、ロシアの寂寞たる大地に一人の美しい女が佇んでいるイメージが浮かぶ。
少女もまた黒い瞳であった。美しい瞳の奥に燃える心を秘めている。

ジャンゴといえば、こんな思い出もある。
あれは何年前だったか、もうずっと前。私は古本市に行った。
そのすぐ傍に大きな芝生の公園があり、人々が寛いでいた。楽器を持った数人の若者がいた。
彼らは様々な曲を演奏していたので、私もリクエストしてみた。
即興で、ジャンゴの『マイナースウィング』とピアソラの『リベルタンゴ』、チック・コリアの『スペイン』を演奏してくれた。
あの日は青空だった。良い日だった。

世界が音楽で溢れていたらいい。
皆、自分の音楽を見つけるべきだ。美しい音楽を。
その真髄に触れて、少しでも人生が豊かになるように。

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