『ベンゴ』レビュー

『ベンゴ』、それは復讐、熱い血の匂い、故郷を持たぬ者の嘆き—–

今回は、私が愛する音楽映画を紹介したい。
2000年に製作された、トニー・ガトリフ監督の『ベンゴ』である。舞台はスペインのアンダルシア地方。
一人娘のペパを失ったカコという男の話。この映画のストーリーを追うのは無難すぎて、避けたい。
カコは、ロマの一族である。分かりやすく言えば、彼らはジプシーと呼ばれた。放浪の民。現代では、ジプシーは差別用語にあたるので、ここではロマと書く。
ロマの文化に興味のある人は観てほしい。豊穣な音楽を感じてほしい。

冒頭から、トマティートのギターが響く。この映画は、他にもラ・カイータなどが本人出演しており、超豪華である。
無条件で血が沸き立つ。好きなものに理由などない。血が好きだと言っているのだ。きっと、存在そのものが好きなのだ。
私は好きな理由を説明できない。言葉にするのは、むずかしい。好きというのは、そういうことなのだ。

スペインには「朝起きて目覚めると思うな」ということわざがある。
これはスペイン人の死生観を表している。生と死は常に一体である。死があるから、生がより際立つ。
死ぬる時まで命を燃やして生きたい。その情熱をスペイン人は持っている。

カコを演じたアントニオ・カナーレスが、渋さの中に色気を漂わせた存在感を放つ。
色気とは、姿かたちではない。美醜でもない。天性のオーラだ。努力して得られるものでもない。彼は、それを持っている。

この映画が生んだ名曲、『ナシ・エン・アラモ』を聴きながら、これを書いている。
音楽には、権力など存在しない。
自然から生まれたもの、魂の叫びが生んだもの、名もなき者たちの歌。
それらが音楽なのだと信じている。

 

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