『マイ・ブックショップ』レビュー

いつもそばに本がある生活ー--とは言え、読みかけたまま積み重なってしまうことが多いのだが、今回は本に対する愛情と情熱を注いだ女性の映画を紹介する。
2017年制作の『マイ・ブックショップ』。1959年イギリスのある小さな港町で、フローレンスという女性が本屋をひらく。未亡人の彼女は、町に一軒もない本屋をひらくのが夢だった。
しかし、オールドハウスと呼ばれる建物に住み本屋を営む彼女を町の人々は良く思わない。とくに地元の有力者であるガマート夫人は、彼女の店を潰そうと画策する。
そんな中、町では変わり者のひきこもり老人であるブランディッシュとの交流が始まる。彼女と届けられるその本を気に入ったブランディッシュは、良き理解者となる。
なんとか書店の経営を軌道に乗せようと奮闘するフローレンスであったが…。

私はまず、この時代と言っても女性が一人で本屋を経営することがこんなにも冷淡に受け取られるということにショックを受けた。
いくら片田舎のイギリスでも本当に大変なのだなと、観ていて悔しい思いであった。
町の権力者はあの手この手でフローレンスの本屋を廃業に追い込もうとする。そういった熾烈な争いを繰り広げながら、ビル・ナイ演じるブランディッシュとの本で結ばれたあたたかい絆に胸が熱くなった。
結局彼女は夢破れたが、ラストでは思いも寄らぬ展開があって、なかなかの秀作であった。

私はやはりハリウッド大作より、こういったじんわりと引き込まれるような世界の作品が好きなのだとあらためて思った。
本もそうで、私の場合はベストセラーだから読む、話題作だから手を伸ばすということがあまりない。ある意味偏っている。
そして、数冊の気に入った同じ本を十代の頃から繰り返し読んでいる。本は、裏切らない。何回読んでも、その時々で感じる心を与えてくれるし、新たな発見もある。
小説なんかの場合は、その時の自分の心境や年齢によって感情移入する場面や人物も変わってくる。それが面白い。
最近は年齢のせいか、本を読む集中力がなかなか湧かないのだが、自分が愛した本をもう一度じっくり読んでみようという気にさせられた。

そして、本好きのかたならわかっていただけると思うが、大型の本屋も、図書館も、昔からある古本屋さんもとにかく落ち着く!ということ。
幸せな時代に生まれたものだと思う。私たちには、本があるではないか。それらを読む権利があり、自由に選ぶことが出来る。
ずっと欲しかった本、希少な本、今まで知らなかったけれど無性に気になる本に出会ったときの喜びといったらない。
長らく行っていないが、お気に入りの古本屋さんがある。私は、人と話すのはあまり好きではないし、人のすすめも聞かぬ方である。
でも、その古本屋さんが大好きで、店主のおじさんも大好きだから、ついつい話し込んでしまう。それで、何故かそのおじさんのおすすめは取り入れてみたいなと思って買ってしまうのだ。
店の外まではみ出した本の束、埃にまみれた書籍の数々…私はそれらが愛すべきものだということを知っている。
出会いとは、人との出会いもあるが、大切な書物との出会いはおそらく一生ものである。
多くの人が幸せな出会いをして欲しいと願っている。この映画のフローレンスもそういう思いで、本屋を起ち上げたのではなかろうか。
思いは必ず受け継がれる。いくつもの本が人々の心の支えになり、情熱の起爆剤になり、救済してきたとしたら、それはいつまでも続くだろう。
本に宿る力を信じる者の映画は、それを私たちに思い出させてくれる。
今日も本がそばにある。迷いの時も、悩める時も、いつでもそばに居てくれるだろう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました