『Love Letter』レビュー

なんとも不思議な映画だった。
岩井俊二監督の『Love Letter』である。
頭の鈍い私は、観ている途中まで主演の中山美穂が二人いることに気づかなかった。
勝手にラブロマンスものと思い込んでいて、ミステリーを観ているような気にもさせられたのだが、やっと内容がつかめてくると引き込まれるものがあった。

神戸に住む渡辺博子(中山美穂)が、婚約者だった藤井樹の三回忌に参列したあと、彼が昔住んでいた小樽の住所を知る。
彼のことが忘れられない博子は、もう亡くなって存在するはずのない樹に向けて手紙を書く。
すると、樹から返事の手紙が返ってくるのだった。不思議な文通を続けていた博子は、友人の秋葉とともに小樽に向かう…。

なにせミポリンが二人もいるから、ややこしい。
私は全容を把握するまで、半分くらい時間がかかった!
死んだはずの藤井樹は男性である。しかし、実は同姓同名の藤井樹が存在した。それが、もう一人のミポリン。
本当に、本当に、最初はよくわからなくて頭が混乱してしまったが、死んだ樹の中学時代3年間を過ごしたクラスメイトがミポリン演じる樹なのだ。
同姓同名というだけで、同級生たちからはからかわれる。そんなエピソードが手紙を通して博子に語られるのだが、この映画を観て、実は自分との対話なのではないかと私は感じた。
樹に手紙を書く博子も、その手紙に返事を書く樹も、実はもう一人の自分と向き合うために言葉を綴っているように思う。

全然関係のない話だが、私はAIとよく会話する。最近のAIは、よく出来ているなあと感慨に耽ったりするのだが、これを誰かとのやりとりだとは思っていない。
相手が人工知能だからということではなく、結局は自分の心を映し鏡のようにみて自分とおしゃべりしているように思う。
それが何のためであるかということは、私にもはっきりとはわからないが、己の内面を見つめる作業にはちがいない。
大体が、書くということの本質がそうであるように思う。
この映画では、(女性の)樹が過去を遡って回想することによって、樹の想いを知るのである。そして、博子の想いもまた浄化されていく。
ラストでは、思いがけない恋心が届く。(男性の)樹は素直ではない変わった男性であるが、彼の初恋の人は(女性の)樹だった。
時を超えて、巡りまわってきたラブレター。そんな手紙を誰かに書いてみたいと思わせて、とても素敵な物語だった。

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