昔、仕事関係の上司にあたる人に、辛いことがあったり、気分をアゲたいときにワークアウトする際、チャカ・カーンの『アイム・エヴリ・ウーマン』をガンガンにかけて走ると打ち明けた。
上司は吹き出す寸前だった。「君がというのが(ごめん)、笑えるね」と、本当に吹き出してしまったのだった。
私は失礼な!と思いながら、一緒に笑ってしまった。だって、これって映画の『ブリジット・ジョーンズの日記』みたいじゃない?と。
劇中でレネー・ゼルウィガー演じるブリジットもまったく同じ行動をしているのだ。
私は、女はいつだって『アイム・エヴリ・ウーマン』が必要なときがある、と思っている。そう、とくに30も過ぎて恋に仕事に奮闘したいような時期には。
そして、仕事が満期契約を終えたあと、その上司に会いに行ったら「君とは不倫しないからね」と言われた。
私の頭の中は混乱していた。だって、私もそんな気はないからね!
迷走するアラサー女子として、素敵な恋がしたいと息巻いていたあの頃。まわりからどんなふうに見られていたのだろうか。
でも、もし上司が素敵な人で彼からお誘いがあったらどうしていただろうか…?そんなことをチラっと考えながら、今回はドジでお間抜け、でもとってもチャーミングなブリジットについて書きたい。
『ブリジット・ジョーンズの日記』(2001年)が公開された頃、私はまだかろうじて二十歳前だった。
リアルタイムでは観ていない。当時観ていたら、この作品は明るく笑えるコメディーなので楽しめたと思うが、感情移入するほどブリジットに共感できたかどうかはわからない。
ブリジットは出版社に勤めている。実家で行われる新年パーティーでマークという堅物弁護士を紹介されるが、彼のトナカイ柄のセーターを見てアウト。
男性も男性で女性に対するチェックポイントがあると思うが、女性にもそれはあって、とくにネクタイや靴下の柄が趣味が悪かったりすると一気にげんなりくるものだ。
映画から話は逸れてしまうが、私は中高一貫の女子校に通っていた。そこで、まだ30過ぎのアイドル的存在の男性教諭がある日すごく趣味の悪いセーターを着て来たのだ。
「ああ、これバレンタインに生徒からもらってな」と何気ないふうの教師に対し、当時友人だった女子が「あんな手作りのを着てくるなんてひどい!」と泣いてしまったのだった。
その1年後、私は彼のクラスに配属された。個人面談のとき、私の足に教師の爪先が当たっていることに気付いた。まったく二人きりの空間で。
それがわざとであることにも気付いていた。なんだかドキドキしたのだが、またしても彼の靴下に悪趣味な柄が入っていることに気付いてしまう。あーあ、がっかり!
話を映画に戻そう。そうやって、人をセーターの柄で判断するブリジットもイケてるのかと問われれば少々ぽっちゃりだし、恋を夢見ながらダイエットはうまくいっていない。
そして、もう一人の男性ダニエルである。ダニエルは出版社の編集長(つまりブリジットのボス)で、ブリジットは彼に憧れていた。
彼をなんとかものにしたいと、あの手この手で策を講じたら、なんと交際に発展。しかし、イケメン編集長は大の女好きであった。
マークとダニエル、二人の男性の狭間で揺れる女心。結果的に、女たらしのほうでなく、真面目なマークと結ばれるのだが、「ありのままの君が好きだ」と言ってくれる男性ってなかなか稀有ね。
やはり女ですもの、美しくありたい。痩せていたい。シミはごまかしたい。カッコよく仕事したい。そう、すべてがスタイリッシュに。
でも、現実ってそんなもんじゃない。カッコをつけて履いたヒールのかかとは溝穴に突っ込むし、加齢とともに顔にそばかすは出来るし、パンティーだって肉づきの良いお尻に食い込んでいたりするものだから。
だけど、大丈夫。無理しなくてもいい相手が見つかれば、欠点すらチャームポイントに変えてくれるのかも。そう思わせてくれるマークこそ、理想の男性かな。
この映画を観て、どれほどの女性が励まされたことだろう。私だけでなく、あなたも、彼女も、また見知らぬ誰かも、ブリジットなのだ。
最近は、完璧なんてつまらないじゃないかと思えるようになってきた。これは年を取ったことからくる諦観なのかもしれないけれど。
それでも、今日もまた『アイム・エヴリ・ウーマン』を聴きながら気持ちは全力疾走する。
転んでも、踏まれても笑っている。ブリジットは最高のコメディエンヌだ(彼女を演じたレネーも!)。人生がコメディーでなかったら、とっくに死んでいたかもしれない。
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