『コントロール』レビュー

以前、15以上歳の離れた男の友人が「ジョイ・ディヴィジョンを聴くと、危うく死にたくなる」と言っていた。
彼の家に行くと(彼はレコードマニアだった)、ターンテーブルにジョイ・ディヴィジョンのレコードが回っていた。それは、ひどく陰鬱で、深刻で、ずっと鳴り続けているのだった。
彼の気持ちが少しわかる気がした。

『コントロール』(2007年)は、ジョイ・ディヴィジョンのボーカル、イアン・カーティスの半生を描いた伝記映画。
イギリスのマンチェスターで1976年に結成されたジョイ・ディヴィジョン。イアンは、学生の頃から文学が好きで、音楽が好きだった。
デボラというごく平凡な女性と出会い、19歳で結婚する。障がい者のための職業安定所で働くかたわら、バンドを結成し、ステージに立つようになる。
イアンの書く歌詞は、すごく鬱的で、救いようがない。私は、ジョイ・ディヴィジョンに深く傾倒しているわけではないが、彼のボーカルスタイルとその世界観はひどく暗い闇の中にある。
癒されない魂、と表現したらいいか。デボラとの結婚で、子供をもうけても、彼の魂はどこかをさまよっている。
彼は間違いなく精神を病んでいただろうし、てんかん持ちだった。そして…才能のある者ほど早死にだ。これは、なぜなんだろう。才気溢れる人の人生は、決まって波乱に満ちていて、とても短く終わる。
イアンは、わずか23歳で死んでしまった。それも自ら選んだ死だった。苦悩のうえの自殺。
彼にとって、生きることは限りなく苦しいことであった。バンドの成功の陰で、いつも何かに怯えていた彼。それは、死の予感がする。自分の存在というものが絶えずおそろしい。わけもわからず、過ぎていく時間。
彼はベルギー大使館で働くアニークという女性と出会う。彼女は、ジョイ・ディヴィジョンのファンで、ファン雑誌に彼らのレコード評などを書いていた。二人は互いに愛するようになる。
イアンはあきらかにデボラを裏切っていたが、アニークとの関係を終わらせることができない。アニークとの仲はバンド仲間も公認していて、もちろんそれはデボラの耳にも入る。
イアンは嘆く。この結婚は失敗だったと。それは、デボラを激しく傷つけた。まだ子供も赤ん坊だというのに。
彼も頭ではよくわかっている。わかっているのだが、どうすることもできない。広がる不安と、行き場のない感情。
ツアーの最中も、もうステージで歌うことすら困難になっていた。大量に飲んでいるてんかん発作の薬、片付かない愛の問題、目が回る、目が回る、次第にオレは駄目になっていく…。
彼は、最後にアニークに手紙を書いた。愛しているという内容の長い手紙を。
そして、自宅に戻り、デボラに会う。朝まで出て行ってくれと彼女に叫ぶと、彼女は家を飛び出した。彼が手にしていたのは、首を吊る縄だ。すべてが終わる、この瞬間に世界が消える。二度と戻りはしない。

イアン、あなたは最後に何を見ていたのか。
なぜ死を丸ごと自分のものにしてしまったのか。
その若さで、猛スピードで駆け抜けていった人生はあなたにとってどんなものだったのか。
彼の痛みを自分に置き換えることなんて、到底できっこないけれど、あなたの声を聴くと心がキリキリと痛みます。胸の奥から叫ぶような苦しさを覚えます。
永遠の眠りについたあなたに、どうか安息な魂が宿っていますように。もうどこにも行かなくていい。自分との闘いは終わったのだから。

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