『パガニーニ 愛と狂気のヴァイオリニスト』レビュー

バイオリン。その音色は、どこか愁いを帯びていて独特の艶めきがある。私がこの楽器に魅せられるのは、他のどんなものより気高さを感じられるからである。
私はクラシックには明るくないが、先日、現代ヴァイオリニストのデイヴィッド・ギャレットが製作主演した『パガニーニ 愛と狂気のヴァイオリニスト』を鑑賞した。
5億円のストラディバリウスを用いての伝記映画である。19世紀イタリアの天才的ヴァイオリニスト、パガニーニの半生を描いた作品。
私はパガニーニについてもくわしくはないが、その生涯が波乱に満ちた人物だということ、そしてその超絶的な技巧が人々の心を強く揺さぶったということが映画を通してわかった。
彼は、間違いなく天才であり異端児であった。音楽以外の面については、非常に自堕落というか、女たらしでギャンブル好きでもあった。
そんな彼がイギリスに渡航しコンサートを開くのだが、彼がその地に降り立つと抗議活動が繰り広げられるくらいの有様であった。
つまり、人々は彼を恐れた。魅惑的でありすぎるがために、悪魔的であるとみなした。確かに、彼の奏でる音は人を惑わす魅力がある。魔性。彼の存在そのものが罪であるかのように、心乱すもの。
彼を追放しようとする者がいた一方で、当然だが、熱狂する人々もいた。ひとたび彼がバイオリンを手にすれば、その場が騒然となった。
才能とは、圧倒的に魅力的でなければいけない。圧倒的に美しくなければいけないと私は思う。そして、これは大前提として、基礎がしっかり出来ていること。基本が出来ていなければ、テクニックを磨くことは出来ないのだから。
すべてを満たした才能がパガニーニだった。放蕩生活をきわめながらも、彼のバイオリンに対する情熱は高まっていった。

この映画では、イギリス滞在中に出会った女性、シャーロットとのつかの間の恋が描かれている。シャーロットは若く、無垢な女性。彼女もまた、音楽を志す一人であった。
とても女好きなパガニーニだが、彼は彼女に惹かれる。だが、シャーロットは彼の誘惑にのらない。初めは、パガニーニを受け入れない。
だが、ある時、パガニーニが一人でバイオリンの練習をしているのを耳にし、彼を認めるようになる。音楽を通して彼の本質に触れ、理解したのだった。
そして、彼もまた、シャーロットの歌声に才能を見出した。彼女をステージに立たせたいと思う。開催されるコンサートで歌ってくれないかと頼んだ。
コンサートでは、最後に彼女の歌声が響いた。美しいアリア。どこまでも澄み切って、深く浸透していく神々しさ。これは、たちまち評判になり、舞台は成功をおさめた。
パガニーニとシャーロットの心も通い合い、二人は結ばれるのかと思った。しかし、そこに待ち受けていたのは残酷な罠だった。
パガニーニのマネージャーをしていた男が、巧妙な手口で彼を陥れる。彼は監獄に入れられる。未成年を凌辱したという罪を着せられて。まったくの濡れ衣なのだが、パガニーニとシャーロットの仲は引き裂かれた。
二人が結ばれることはなかった。

パガニーニは、その人生を不遇に終えたように思う。彼は死後、遺体を埋葬されるのを拒否され、ようやく共同墓地の土に眠った。
彼を演じたデイヴィッド・ギャレットを初めて知ったのだが、なかなかに魅力的である。モデルをしていたというから、そのルックスもさることながら、確かな演奏力で引き込んでくれる。
鑑賞して、あらためてバイオリンという楽器に魅了されてしまった。魂よ、誇り高くあれ。孤高に輝く存在として、私の心をつかんで離さない音色がそこにはあった。

 

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