『スウィング・キッズ』レビュー

私がスウィング・ジャズに出会った映画、『スウィング・キッズ』(1993年製作)について紹介したい。
小学生の頃、当時大阪にあったテアトル梅田で観た。子供だったために朧気ではあるが、感動した作品である。
時は1939年のナチス政権下のドイツ。ユダヤ人への迫害や虐殺などが行われていたさなか、ナチズムに反抗し、ジャズを愛する若者たちがいた。
彼らは、スウィング・キッズと呼ばれていた。主人公であるピーターとその仲間たちは、ドイツ人でありながらもスウィングに魅了されダンスホールに繰り出したりレコードを聴いたり。
しかし、次第に忍び寄るナチズムの嵐は彼らを追い詰めていく…。

ピーターは、ジャズを愛している。彼の父親はナチスに反抗して亡くなった。そのことが彼の精神に影を落としている。
逃れられないナチズムから、ヒトラー・ユーゲント(ナチス青少年団)に入団せざるをえなくなった彼は葛藤する。
昼間はヒトラー・ユーゲント、夜はスウィング・キッズとして活動していくうちに、彼の頭は混乱していく。
権力におもねる者もいれば、自分の主義を曲げずに生きる者もいる。ピーターの友人もそう。ヒトラー・ユーゲントに入団した者もいれば、ナチスに染まることを拒否し自殺した者もいる。
どちらが本当の意味で強いのか、この映画を観ればわかるだろう。

子供の頃観た時は単純に、心躍るダンスシーンやベニー・グッドマンの音楽などに魅力を感じた。
ラストの方でジャニス・シーゲルが歌う『素敵なあなた(Bei Mir Bistu Shein)』は、この曲の良さを最大に引き出しているし、この映画のハイライトにふさわしい。
音楽はもちろんだが、これは自分の生き方を問う、権力とは何か、権力に屈しないというテーマを持った映画であり、本当に多くの人に観ていただきたい。

暴力とは、支配だ。ナチスは権威と暴力の象徴であった。私なら、そんなバッジつけたくない。
この映画を観て、若い時に読んだ『過ぎ去らない人々』(徐京植・著)という本を思い出した。この本には、権力にひれ伏さず自分を生きた詩人や文学者、芸術家など沢山の有名・無名な人々が登場する。
久々に読み返してみたくなった。どう生きるべきかの指標が詰まっている気がする。これも捨てずに置いていた。大事な本かもしれない。

本当に久々に観たが、主義を貫くことのむずかしさ、信念を通すことの大切さ、精神の自由について考えさせられる内容だった。
音楽好きなかたにもすすめたいが、それ以外にも心に響くものがある素晴らしい青春映画である。

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