『マイ ビューティフルガーデン』レビュー

『マイ ビューティフルガーデン』(2016年)鑑賞。
イギリス映画らしく、大作ではないが心にあたたかな余韻を残す良作であった。
主人公のベラは、とても風変わりだ。生後間もなく公園に捨てられたベラは、秩序を乱す予期せぬものに対して敏感な女性だった。とくに自然に向けて畏れを抱いている。
神経質なくらいに周りが整っていないと気が済まない。そして、本を読むのを好み、図書館で働いている。いつか作家になって本を出すことを夢見ながら執筆に励んでいる。
そんなベラにも劣らぬ風変わりな隣人アルフィー。彼は年寄りで一人で生活しているが、ひょんなことから料理を作らせているヴァーノンをベラに奪われ、ここから物語が始まる。
ベラは園芸をまったくしない。しないどころか、植物が大の苦手なので庭が荒れ果てている。ある日アパートの管理人が彼女を訪ね、1か月以内に庭を元通りにしないと退去させると迫る。
ベラは果たして美しい庭を取り戻すことが出来るのだろうか。

現代のおとぎ話のような映画ではあるが、私はこの風変わりな登場人物たちになぜか親近感をもった。
ベラの小さな世界は隙のないほど閉ざされているわけではなくて、アルフィーやヴァーノン、図書館に現れる機械発明家のビリーとの交流によって、少しづつ陽の光る場所へと向かっていく。
初めは嫌味ったらしい老人だったアルフィーが、ベラの庭づくりを手伝うにつれ、どんどん深みのある美しき心の持ち主であることがわかってくる。
庭づくりにおいての大先輩でもあるが、ベラに大切なことを教える人生のナビゲーターのような存在なのだ。
「雑然と混沌はちがう。混沌の中に美を見出すのだ」と、ベラに教える。自然は、まさにその美の極致。思いやりをもって手入れされた庭には、人の心を正しく美しくさせる何かがあるのだと。

私もどちらかといえば、自然が苦手ではある(というか、山と虫が苦手なのだ)。しかし、けっこう以前からイギリス様式のガーデニングには興味がある。
ワンルーム住まいで自分の庭など持っていない私だが、心の中に庭を持つことは出来る。心はいつでも自由だから。
ガーデニングの写真集などを見ながら、どんな花を植えようか、ハーブはどんなものがいいかなどと考えるだけでワクワクする。
短大に3年も通ってしまった私だが、その3年間をほぼ近くの薔薇園で過ごした。薔薇園には学校の生徒もいなくて、友人がいない私にとっては一人で落ち着ける憩いの場所だった。
美術学科があった学校だったので、アートの本をたくさん持ち込んで過ごした。新緑の季節は、本当に美しかった。凛として華々しく咲き誇る薔薇たちに祝福されているようで。
お気に入りの詩集などを読みながら、お茶とサンドウィッチを楽しみながら、花たちとよく会話したものだ。雨の日は、濡れそぼった花弁が少し儚くさびしげだった。本作を観て、そんな想い出まで蘇ってきた。
この映画で大切なこと、それはやはり自分の想像力を信じるということではないかな。
ベラは勇気をもって扉をあけた。一歩前に踏み出した。すると不思議なことに、荒れ果てた庭もみるみる生気みなぎって本来の美しい姿に戻ったのだ。そこには、溢れる想像力とクリエイションがあったはず。
想像力=創造力=信じる力。それがあれば、どんなつまづきがあってもまた前へと進めるはず。そして、人生を美しい花々で囲って、より良く生きることも不可能ではないはずだ。

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